MMSS会員さまのクリエーションのご紹介 #1 / ensuiへのインタビュー「珈琲はファンタジー」

この時期のおすすめ「ケニア」。 深煎りでビター、なめらかで重厚な珈琲だった。

この時期のおすすめ「ケニア」。
深煎りでビター、なめらかで重厚な珈琲だった。

MMSSでは2021年9月より会員様向けのサービスとして、お送りする本と一緒に新潟の珈琲屋ensuiの「珈琲バッグ」を同梱させて頂く取り組みをスタートしました。この取り組みを記念して、今回ensuiのオーナー細貝さんにインタビューを行いました。


小玉:まずはじめに伺いたいのですが、細貝さんはどのようなきっかけで自ら珈琲屋さんを始められたのですか?もともと新潟の珈琲店で働かれていたことは存じております。


細貝:大学卒業後は広告会社で働いていたのですが、新潟の珈琲店のオーナーのものの考え方に惹かれて、東京にいる頃から「働きたい」と申し出をしたことがありました。その時は断られたのですが、広告会社を辞めてあてもなく地元に帰った時に、たまたまタイミングがあって一緒に働くことができました。

元々独立は見据えていたので、3年ほど働いた後、自身の結婚と子どもが生まれたことを契機に、昨年から本格的に、ensuiとして活動をはじめました。

珈琲に興味を持った、という意味で言えば、在学中にスターバックスでアルバイトをしたことがきっかけです。働き始めた頃は、コーヒーの味はおろか、ブラックコーヒーすら飲めませんでした。そこから、都内の喫茶店やカフェを巡ったり、自家焙煎店のコーヒー屋の店主から焙煎の話を聞くようになりました。


小玉:働きたかった珈琲屋のオーナーさんのどういった考え方に惹かれたのですか?


細貝:具体例を挙げるとキリがないのですが、当時はSNSやブログなど、店主がウェブで発信している内容はほとんど目を通しました。ざっと10年分くらい。

例えば、コーヒー豆の値付けの話。その珈琲店はブレンド、シングルどちらも全種類同一価格で、その理由が「値段ではなく、好みでコーヒーを選んでほしいから」

飲食の業界で言えば、値段は原価から設定するのがセオリーです。ここからは私の解釈も含みますが、そのオーナーは値段という変数を減らすことで、お客さん自身に選ばせる(値段が高いもの=おいしいものという先入観に囚われないようにする)という主体性を引き出しているわけです。

これはマーケティング的に見れば、好ましくない方法論(選ぶ際のファクターが多いほど、顧客は意思決定がしやすいから)ですが、その「マーケティングをしない」というマーケティング(?)に、地方でやりたいことを続けていく、ひとつのヒントがあると思っています。

地方でお店を持てば、(基本的には商圏ビジネスですから)、その土地にいる人にいかに受け入れられるか、を考える必要があります。ただ、皮肉な話、その土地にいる人に受け入れられるものばかり作ると、(商圏の外側にいる)自分がほんとうに届けたい人に届かなく(質としての強度が足りなく)なります。

つまり、内側だけ盛り上がって、外側の人がその輪に入れない構造が出来上がります。それでも食べていくビジネスモデルを作ることは可能でしょうが、私はそういう道に進む気になれなかった。

そのオーナーが言うように、マーケティングをしない(=周りの耳に傾けるより、自分自身が本当にいいとおもうものをつくる)ことで、輪の外側にいる人にまず届けよう、とensuiをはじめてから今でも思っています。


小玉:地元に根ざしている受け入れられるものだけではないからこそ、ensuiさんは積極的には店舗を持たず、オンラインショップを軸に珈琲屋を営んでいるのでしょうか?


細貝:いえ、実店舗は常に念頭にあります。まだぴんと来る物件が見つかっていないというだけであって。

先ほどの話につながってくるのですが、まず外部にアクセスすることで、その後を追うように内側のひとに届かせる、ということができると思っています。

地方の人は目新しいものに拒絶反応を示すことが(相対的に多く)あり、その不安材料を取り除くには”外部の人に認められている”という証のようなものが必要です。

具体的には、ローカル誌ではない雑誌に載るとか、著名人のお墨付きがあるとか…..。なんでもいいんですけど、そういう外部目線の情報があってはじめて、「うちの地元にこんなお店があるんだ」と事後的に気づくことがあるんです。

このプロセスなら、自分がやりたいことを地方であっても、続けていけるのではないかと。あくまでも仮説ですが、そんな空想をしています。(もちろん外部の人から見向きもされず、そのままフェードアウトする可能性だってあります)

結局、私は広告会社を出ていながら、今そんな考えをしているわけです。


小玉:たしかに、地方の人は新しいものを遠ざけてしまう傾向にあるようなことは聞きます。細貝さんはそれは何故だと思われますか?

細貝:やはり新しいものに触れる機会が少ないからでしょうか。アートのように、意味や用途が見出しにくいものへの抵抗もあるかと思います。

私が住んでいる新潟県は、雪国で面積も広く、ひととの繋がりにおいて保守的な面もあるかもしれません。

小玉:これからの季節、ensuiさんのおすすめのコーヒーを教えてください。

細貝:珈琲のおすすめはあまり得意ではないのですが(笑)、秋口から冬にかけてはやはり中深〜深煎の珈琲でしょうか。

滋味深く果実味のあるケニアは、秋が旬の果実のように芳醇で、肌寒い日にしみじみと温まるのに良さそうです。

小玉:その土地や風土、周りの環境によって自然に人間も好みや趣向など変わってくるかも知れませんね。おすすめを教えていただきありがとうございました。珈琲はたくさん種類がありすぎて、自分の好みを見つけるまでに時間がかかるように思います。こうやって季節によって焙煎の度合いを選んでみたり、品種を変えてみたりして楽しんでも良さそうですね。ensuiではどういった基準で豆を選んで焙煎など行っているのでしょうか?

細貝:基本的には自分が美味しいと思うかどうか、というのが最優先ですが、流行に左右されない珈琲かどうか、も大切にしています。

ensuiでもいわゆるスペシャリティ珈琲を扱っていますが、そのフレーバーが行きすぎていないか?(日常的に飲むのに差し支えないか?)がひとつの判断基準です。やはり珈琲を日々楽しんでほしいと思っているので。

それと香りはもちろんですが、口当たり(マウスフィール)も重要な要素です。食べ物を質感(テクスチャ)で味わう日本人に合った珈琲をつくりたいです。

あとは産地でしょうか….。ensuiでは、”アジア””アフリカ””中南米”それぞれの珈琲豆をバランスよくラインナップしたい、と考えています。

理由は各産地の個性がそれぞれ異なるから、というのもありますが、珈琲が地球上の様々なエリアに存在している、その多様性のようなものを表現したいからでもあります。

いずれはブレンドも、”アジア””アフリカ””中南米”から一種類ずつセレクトしてつくってみたいですね。味覚的にどうかというより、ロマンティックであるということも大事です。珈琲はファンタジーの世界でもあるので。

小玉:細貝さん、インタビューにご協力いただきありがとうございました!

—————————————————————————————————————————

ensui

ensuiは、2020年より新潟県を拠点に活動する珈琲屋です。良質なスペシャルティ珈琲の中から、さらに個人の眼で生豆を厳選し、自家焙煎を行なう。珈琲豆の他、リキッドアイス珈琲や珈琲バッグなどの珈琲加工品も展開。ensui (円錐) の由来は、北園克衛の詩集から。

Online Shop : https://ensui.shop-pro.jp/

Instagram : https://www.instagram.com/en_sui_/

—————————————————————————————————————————

MMSSでは現状会員様の大半が様々な業種で活動されるクリエーター様やデザイナー様、事業者であったことから、上記の取り組みのようなジャンルを超えたMMSS会員様との共同企画や、様々な業種の方を交えたコミュニケーションによる企画など、これからも新しい試みを行って参ります。MMSSの取り組みやラインナップしている本をご活用頂いての企画にご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

→ お問い合わせ

—————————————————————————————————————————

Previous
Previous

2021.11.26-2021.12.2 OBJECT TOOL at MATOYA

Next
Next

「衝動と熱量」